疫病に対する中医学の考え方と対応(1) 「漢方で体質別に健康な身体をつくる」
◆新型コロナウイルス肺炎の世界的な蔓延が懸念されています。新日本漢方(株) 医学博士 宋靖鋼先生による、「疫病に対する中医学の考え方と対応」 についての解説を3回に渡ってお届けします。ぜひご参考下さい。
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今回の新型コロナウイルス肺炎は、これまで人類において発見されたことのない新型冠状ウイルス(COVID-19)による急性呼吸器気道感染症で、非常に強い伝染性を持っています。感染後、病状の進行は急速で危険な状態に陥る患者が多く、現在西洋医学ではまだ効果的な抗ウイルス薬やワクチンがないため、予防と治療効果にいまだ期待ができず、重症化および死亡に至る症例も比較的高くなっています。現在、中国国内でのウイルスはかなり抑制されてきていますが、日本国内を含む世界中において発症者数は増加傾向にあり、世界保健機構(WHO)により世界的大流行(パンデミック)であると発表されました。日本に暮らす私達は正確且つ有効な手段によって、このウイルスから自分と家族の健康を守ることが何よりも大切です。
中医学では今回の新型コロナウイルス肺炎の予防と治療に対して独特の考え方や手段を持っています。これはこのような疫病に対して漢方医学が数千年の予防や治療の経験を有しているためです。これまで蓄積された多くの処方が存在し、またここ数ヶ月間の中国でのウイルス対策実践における応用が加わったことにより、それはさらに確認、強化されることとなりました。
今回の新型コロナウイルス肺炎は、発熱、倦怠感、空咳、頭痛、筋肉痛を主な臨床症状とし、時に鼻水、鼻づまりなどの上部呼吸器道の症状が見られます。重症になると、胸悶、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、呼吸困難、さらにはショック、死亡が見られます。これらの特徴から考えて、漢方医学では今回のウイルスは「寒湿毒邪」による「寒湿疫病」であると考えます。特に陽虚に偏る体質の方、脾気虚・肺気虚体質の方は感染しやすいでしょう。寒湿毒邪が人体に入ると、肺の宣発機能が失われ(肺気不宣)、脾胃の不調を引き起こし(脾胃失調)、痰湿が肺に詰まり(痰湿壅肺)、化熱して陰液を損傷(化熱傷陰)、気機(気の流れ)が鬱閉するなど、さまざまな変化を引き起こします。
中医学による「未病先防」の理論に基づいて考えると、疫病予防において最も大切なことは「体質の改善、胃腸の調節、抵抗力の強化」で、このような健康な身体を作ることで疫病を遠ざけ、かかりにくくすることができると考えます。
それでは、まずはじめに、日本で入手可能な生薬と漢方薬の一部を適した体質別にご紹介いたしましょう。
1板藍根(ばんらんこん)
板藍根は温性疫病に対し使われることで中国では大変良く知られている生薬です。身体の免疫機能を高めるだけでなく、抗菌抗病毒という二重の効能を持ちます。また、薬の性質は穏やかで安全性も高く、脾胃虚寒(代表的な症状は冷たいものを食べるとすぐ下痢してしまう体質)の方を除き、健康状態に大きな問題のない方は、高齢者や幼児、妊婦も含め服用できます。
2西洋参(せいようじん)
疫病の初期には、倦怠感(身体がだるく力が出ない)や、空咳という気陰両虚の特徴がよく表れます。日本では多くの人が日常生活や仕事に大変忙しく、心身の疲れから気陰両虚の体質に傾いたり、免疫力の低下を引き起こします。西洋参は正気を補い、肺陰を養い、また清熱安神の作用を持ちます。体質改善にも大変良い選択といえるでしょう。
3霊芝(れいし)
霊芝には益気温陽(気を補い身体を温める)、また補腎益精(腎精を補う)の効能があり、高齢者や虚寒体質の方(冷え性)、普段風邪をひきやすい方、寒がり、浮腫みやすい方等には大変適しています。特に疫病肺炎は寒湿疫病に属する事が少なくないため、このような体質の方は体内の陽気を増加させる等、体質改善することが大切です。
4玉屏風散(ぎょくへいふうさん)
玉屏風散は「益気固表」の伝統的な漢方方剤です。黄耆、白术の益気扶正効果(=気を補い正気を養う)を主とし、呼吸器系と消化器系の機能を強化します。また、防風は体表を保護することで、まるで「屏風を立てるように」外邪の身体への侵入を防ぎます。普段風に当たるのが苦手で、寒がり、汗をかきやすく風邪をひきやすい人に適しています。